精神疾患で退職しても失業保険はもらえるの? 【お金の悩み】

精神疾患で退職しても失業保険はもらえるの?

精神疾患と診断を受け、退職を考えたときや退職勧奨を受けた場合など、「退職」という言葉と一緒に頭をよぎるのは、その後の生活に必要な「収入」ではないでしょうか?

生活費の心配がなければ、療養に専念したい方も多いでしょう。
療養に専念でき症状が改善されれば、転職など今後の暮らしについて考えることもできますね。

精神疾患のある方が退職した場合、活用できる給付金や制度はあるのでしょうか?
療養しながら失業保険(失業給付金)などの受給はできるのでしょうか?

このコラムでは、精神疾患により退職した方のお金にまつわる制度を紹介していきます。
また、障害者雇用の専門家 水谷愛さん(精神保健福祉士、公認心理師)にもアドバイスをいただきました。

退職を考えている方は、ぜひ参考になさってください。

*この記事は水谷愛さんに監修していただきました
水谷愛さん

精神保健福祉士(精神科ソーシャルワーカー:社会福祉専門職の国家資格)、公認心理師、臨床心理士、産業カウンセラーの資格を取得。精神障害者デイケアにて5年、スクールカウンセラーとして10年、発達障害者就労支援センターにて4年の経験を積み、現在は障害者就労移行支援事業所にてサービス管理責任者として勤務しています。著書『「がんばり屋さん」のこころのトリセツ』も好評。


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目次

1.精神疾患で退職したときにもらえる手当や給付金

2.退職してからでは遅い?退職前に知っておきたい制度

3.精神疾患で退職したときに利用を検討したい制度や手当

3.専門家からのアドバイス

4.まとめ

1.精神疾患で退職したときにもらえる手当や給付金

精神疾患を理由に退職した場合と、精神疾患ではない理由で退職した場合、対象となる給付金に違いはあるのでしょうか?

今回は、精神疾患のある方が退職した場合に利用できる給付金制度とその条件についてまとめてみました。

①退職金

まず退職と聞いて真っ先に思いつくのは「退職金」ではないでしょうか。

しかし、退職金はどの会社も必ず支給する賃金であるという決まりはありませんので、注意が必要です。

退職金を支給する場合は、就業規則に記載しなければならないと労働基準法(第89条)で定められています。
就業規則は雇用されている人であれば閲覧できるものですし、不明な点や質問などがあれば、人事部などの担当部署に確認すると良いでしょう。

②失業給付金(失業手当、雇用保険)

退職すると「失業手当」「失業保険をもらう」などという言葉を耳にします。これは、雇用保険の失業等給付制度にある基本手当のことをさしています。

基本手当は失業した人に対し支払われ、その額は雇用保険に入っていた期間(被保険者期間)や年齢に応じて異なります。
なお、基本手当は以下の3つの受給資格を満たした場合に支給されます。

  1. 離職の日からさかのぼった一定期間に被保険者期間があること
  2. 失業の状態にあるこ
  3. ハローワークに求職の申込をしていること
  4. ※被保険者期間を満たした状態とは、離職前2年間に、雇用保険に入っていた期間(被保険者期間)が12ヶ月以上あった状態のことです。1ヶ月間のみなし方については、就業状態により異なるので、以下のサイトでご確認ください。

    参考:厚生労働省 Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~
精神疾患により退職した方の場合、①②の被保険者期間を満たし失業の状態にあったとしても、すぐには働けないのが現状でしょう。つまり③の求職を申込む状態という条件は難しくなります。

ただし、雇用保険の受給期間は原則退職した翌日から1年間ですが、病気やけがなどの理由で引き続き30日以上働けなくなった場合は、その日数だけ受給期間を延長することができます

延長できる期間は最大3年間で、この期間に働ける状態まで回復すれば雇用保険の失業給付を受けることができるのです。

なお、受給開始日は失業した理由により異なります。自己都合で退職した場合は、失業手当の申請手続きから1週間の待機期間後、さらに3ヶ月の給付制限期間があり、その期間が終わるまでは基本手当は給付されません。

しかし、精神疾患など心身の障害、疾病が理由で離職した場合は、特定理由離職者とみなされ、3ヶ月の給付制限期間は不要となることがあります。詳しくはハローワークで確認してみましょう。

③障害年金

障害年金には1級・2級・3級と種類があり、数字が小さいほど障害が重度になります。また受給条件や支給額は、国民年金加入者、厚生年金加入者で異なります。

1級・2級は、国民年金加入者でも受給できますが、3級は厚生年金加入者でないと受給できまん。

そして、病院の初診日が重要になります(初診日とはその病気やケガで初めて医療機関を受診した日のことで、確定診断を受けた日ではありません)。
初診日に国民年金、厚生年金のどちらに加入していたかで、受給条件が変わるからです。

初診日が国民年金加入時であれば、1級もしくは2級に該当した場合のみ受給できます。初診日が厚生年金加入時であれば、3級も受給できる可能性があります。

相談先は、障害基礎年金の場合は市町村の年金課、障害厚生年金や障害共済年金の場合は年金事務所、または加入されている各共済組合になります。

障害年金については受給条件や申請方法が複雑であること、また後述する生活保護と同時受給できるかなど確認事項がたくさんありますので、ひとまず年金事務所や年金相談センター、みんなねっと(全国精神保健福祉会連合会)の中にある「みんなねっと相談室」などの窓口に相談すると良いでしょう。

参照:みんなねっと相談室(公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会)

参照:NPO法人 障害年金支援ネットワーク

④生活保護

最後に生活保護についてです。受給するためには、現在所有している資産や預貯金、働ける状態かどうか、親族からの援助を受けられないか等の前提条件の確認があり、その上で国が定める基準額を下回る場合、支給の対象となります。

生活保護の認定基準は確認事項が多く、状況により異なります。申請については、お住まいの市町村に確認してみましょう。

2.退職してからでは遅い?退職前に知っておきたい制度

活用できる制度の中には、退職する前から受給していれば退職後も引き続き受給できる手当があります。つまり、退職後に申請することはできない制度です。詳しく見てみましょう。

①傷病手当金

傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、健康保険の被保険者が病気やけがで会社を休み、事業主から十分な賃金が得られない場合に支給されるものです。

つまり、会社を休んだ期間に給料の支払いがあった場合は、傷病手当金は支給されません。 しかし、休んでいる間に事業主から十分な報酬が無かった場合は、支給の対象となります。

「傷病手当金」を受けるためには、条件があります。

「傷病手当金」を受けるためには、以下の条件をすべて満たすことが必要です。また対象となるのは被保険者のみです。

引用:精神疾患で休職すると収入はどうなるの?
この「傷病手当金」ですが、次の2件を満たしている場合のみ、退職後も引き続き残りの期間分を受け取ることができます。

(資格喪失後の継続給付)

・被保険者の資格喪失をした日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間 (健康保険任意継続の被保険者期間を除く)があること。

・資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること。
(なお、退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません。)

引用: 全国健康保険協会(協会けんぽ)傷病手当金について
「傷病手当金」は退職後申請することはできませんが、退職前に条件をクリアして受給している場合、受給期間が残っていれば退職後も引き続き受け取ることができるものです。

退職前に知っておいたほうが良いですね。

3.精神疾患で退職したときに利用を検討したい制度や手当

次に精神疾患により退職した場合、条件が揃えば利用できる制度や手当についてご紹介します。

①自立支援医療制度(精神通院医療費の公費負担)

自立支援医療制度を活用すると、診察代や薬代などの費用が1割程度まで軽減できます。また一ヶ月に払う自己負担額にも上限が設けられます。

退職、休職に関わらず、通院している方は利用できます。

自立支援医療制度は、精神疾患と診断されて通院治療が必要な方に、健康保険の自己負担分を支援する制度です。

引用: 精神疾患で休職すると収入はどうなるの?【お金の悩み】

②高額療養費制度

高額療養費制度は、入院や外来治療でかかった金額が高額になった場合、後日、医療保険から自己負担分を支払ってもらえる制度です。

支払われる金額は、所得状況に応じて設定された「自己負担限度額」を超過した分です。そのため収入に応じて自己負担限度額は異なります。加入している保険証の発行先に確認してみてください。

しかし、退職しているということは会社に保険証を返してしまっている可能性はありませんか?
退職後の健康保険の加入方法には以下のパターンがあります。

    ①任意継続
    ②国民健康保険
    ③ご家族の健康保険=被扶養者
①の「任意継続」は、条件が揃えば退職した後も、退職前の会社の健康保険に継続して加入することができます。
その他にも選択肢はありますので、よく検討して手続きを行いましょう。

「退職後の健康保険」について、どのような手続きが必要ですか?
引用元:全国健康保険協会(協会けんぽ)

3.専門家からのアドバイス

精神疾患に悩む方へ、専門家 水谷愛さんからのアドバイスを紹介します。

■精神疾患により退職を迷っている方へ

退職を迷っているのであれば、まずは使える制度をしっかり使ってから考えても遅くはありません。
精神疾患で退職を迷っているのであれば、有給休暇や傷病手当を利用してみてから退職を考えても良いと思います。

いちばん良くないのは、焦って退職をしてしまうことです。何ヶ月かじっくり考えて、退職をしてもやっていけるお金の算段がついてから辞めても遅くはありません。
その間に主治医としっかり相談し、あなたにとってどのようにしていくことが最善か考えていきましょう。

■退職後、転職を目指す方へ

退職後、精神疾患を抱えながら転職を考えていくのであれば、今後どんな働き方をすればご自身への負担が少なくなるか、次は退職しなくても済むようにするにはどんな条件のところで働くのが良いかをしっかり考えておくと良いでしょう。

まずは主治医や管轄の保健師さんと相談し、「フルタイムで働いても大丈夫なのか、パートタイムに切り替えた方が良いのか」「一般枠が良いか障害者雇用枠が良いか」など、じっくり考えていくことが必要になります。
転職について相談できるところもたくさんありますので、利用してみましょう。

4.まとめ

精神に障害があることを受け止め、環境を変えて症状を改善するために退職を決意すること。それは前向きな行動のはずなのですが、やはり今後の生活やお金の事を考えると、新たな悩みを生じてしまうかもしれません。

今回は、そのような悩みにお応えできればと思い、活用できる制度などをまとめてみました。
しかし精神疾患で悩んでいる方の中には、給付金を受給するための手続きが少し複雑だと感じたり、相談に足を運ぶこと自体を億劫だと感じたりする方もいらっしゃるかもしれません。

それでも退職すべきかどうか悩んだ時に、活用できる制度があるという情報を頭の片隅に知っておいていただくだけでも、その後の悩みや不安が少し解消されるかもしれません。

ぜひご参考いただけますと幸いです。そして、日々の生活がが少しでも良い方向へ向かわれることを願っています。



▼休職についての制度や手続きはこちらでご紹介しています
精神疾患で休職しよう思ったときに知っておきたい制度と手続き【休職の申請】


▼障害者枠(オープン)や一般枠(クローズ)についてはこちらでもご紹介しています。
障害者枠(オープン)か一般枠(クローズ)か?メリットとデメリットを解説


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監修者

精神障害者デイケアにて5年、スクールカウンセラーとして10年、発達障害者就労支援センターにて4年の経験を積み、現在は障害者就労移行支援事業所にてサービス管理責任者として勤務しています。著書『「がんばり屋さん」のこころのトリセツ』『【HSPの会社員】が自分らしく楽に働くトリセツ』『発達障害の人が「うまく」働いて幸せに生きるトリセツ』も好評。

保有資格

著者

障害、病気のある方の企業や仕事に関する口コミサイト「アンブレ」を運営中。 丁寧な取材や口コミの分析を通して、病気や障害の特性に配慮した働き方や仕事との向き合い方を提案。理想の職場に出会うための、そしてより働きやすくなるための情報を発信しております。障害や病気があってもぴったりの仕事を。

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