「障害者雇用の好事例」とは、障害者の雇用管理や雇用形態、職場環境、職域開発などについて事業所が創意・工夫して実践している取り組みを、テーマ別にとりまとめて紹介した事例のことで、各都道府県や厚生労働省などが事例集を作成し発行しています。
行政や省庁にその取り組みが認められた企業ということは、その企業には障害のある方が働きやすい環境を望めるのではないでしょうか?
では、好事例集に取り上げられた企業の取り組みを一部ご紹介します。
2-1 障害者雇用の好事例1:精神障害のある方が8割を占める企業
シダックスオフィスパートナー株式会社
学校給食・企業食堂の受託運営などで知られるシダックスグループの特例子会社である「シダックスオフィスパートナー株式会社」は、2011年に設立されました。
全国550ある事業所の95%の事業所で採用される障害者従業員は1人。そのような状況では受け入れる企業側も、長く働き続けてもらうためのサポートに悩むことも多かったと言います。そこでまずは核となる会社をつくり、ノウハウを蓄積しながら全国に展開していこう、ということになりました。
そのような背景から設立された「シダックスオフィスパートナー株式会社」では、51人の障害者が活躍し、今では都内に2カ所の事業所を展開しています。
注目すべきはその内訳で、
精神障害のある方が約8割を占めています。
・知的障害 8人
・精神障害 39人
・身体障害 4人
主な仕事は、事務代行サービス、メール室サービス、印刷サービスなどで、グループ全国事業所勤務者約500名のサポートを行っています。
また取組みにも様々工夫がされています。
採用が決まると、まず
自己紹介シートに働きたい理由や将来の目標のほかに、得意・不得意なこと、希望する配慮、調子を崩したときの症状、不調なときに対応可能なセルフケア方法などを記載します。
また出勤後には、体調の意思表示をするために、壁に貼ってある顔マーク「ちょーハッピー」、「まあまあ」、「まずまず」、「もうだめだ」の当てはまるところ に自分の名札を貼っていきます。そして自分の
気分ノートにも書き込みます。よくない状態の顔マークに名札を貼った従業員には、定着支援員が詳しい状態を聞きながら細かな対応をすることを心がけています
他にも、外部カウンセラーと月 1 回の
こころの相談室を設けるほか、勤務中は作業が続くと知らぬ間に疲れていたり、息抜きのために離席するのをためらう従業員もいるため、
休憩時間の細分化を導入しています。
このような1人1人の日々の体調や気分を確認し、それに応じたきめ細やかな心配りを行うことで、精神障害がある方も働きやすい環境が作られています。
また、評価給料や正社員への登用制度なども取り入れることで、従業員のモチベーションをアップすることにもつながっています。
今ではこのノウハウが他の事業所にも広がり、定着支援を展開。これからも障害のある方が自然と溶け込める職場環境を目指しています。
参照:働く広場2019年4月 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構発行
2-2 障害者雇用の好事例2:従業員数が多い大手企業
東急リバブル株式会社
不動産仲介業、不動産販売業、新築販売受託業を行う東急リバブル株式会社の従業員数は3235人、そのうち
65人の障害のある方が15部署に配属され180職種を担当しています。
その内訳、おもな仕事は以下の通りです。
・発達障害 24人
(事務サポート、ギフトフラワー作成)
・知的障害 1人
(ギフトフラワー作成)
・精神障害 16人
(事務サポート、ギフトフラワー作成)
・身体障害 20人
(間取図・地図など作成、営業職、企画事務)
・視覚障害 1人
(営業職)
・聴覚、言語障害 3人
(事務サポート)
また、様々な取り組みが高く評価されています。
・身体障害のある方の在宅勤務型採用を始めたが、幅を広げるために
精神障害のある方の採用も積極的に行うようになった。通勤できるスタッフは「チャレンジスタッフ」と言われ親しまれている。
・就労移行支援事業所で訓練を受けた方も多く、
障害の特性や自分に必要な配慮を自己発信できるので企業としても理解しやすい。また事業所の担当スタッフから一人ひとりの特性を具体的にヒアリングすることで、働きやすい職場環境づくりに努めることができ、力強いサポートを得られている。
・相談窓口となる専任の社員も配置し、
業務指示は一本化している。指示は視覚化することに努めた。専任スタッフは、度々就労移行支援事業所の指導を受け学んでいった。
そして、障害のある方のパフォーマンスは想像以上で、「一般社員が残業してやっていた仕事、担当がはっきりしていない仕事をチャレンジスタッフが担うようになり、一般社員の負担軽減に大きく貢献した。」という嬉しいコメントも掲載されています。
従業員数が多い大企業は障害者の雇用人数も多いので、同じ障害のある方が働いていることもあり安心できるかもしれません。
また障害のある方の従業員数が多ければ、企業側も豊富な経験や障害に関する知識を活用することができるので、理解のある職場環境が望めそうです。
参照:障害者雇用事例 リファレンスサービス
2-3 障害者雇用の好事例2:従業員数が少ない小規模な企業
株式会社インテージ・アソシエイツ
インテージグループ各社へのシェアードサービスを提供し、総務・人事・経理などの業務を行っている「株式会社インテージ・アソシエイツ」の従業員は99人、そのうち5人の障害のある社員が就労しています。
以前は、各事業所に散らばって配属されていたため、事業所により労務管理などが異なるなど複雑だったと言います。その思いから、障害のある方の勤務地を本社に集結し、同じ部署で他部署から依頼される仕事を協力しあって行うことにしました。
障害のある方専門チームを立ち上げ、3名の指導者が担当しました。しかし、指導者は障害者雇用に関する知識がなく手探りの状態でした。この状況を変えようと、他社の取り組みを学ぶためにサポーター事業に参加。養成講座で基礎知識を習得し、他社の現状を知ることで障害者雇用の奥深さを知ったと言います。
さらにコミュニケーションが苦手な知的障害のある方とのコミュニケーションスキルを上げるために、臨床心理士との月1回の
ソーシャルスキルトレーニングを実施。理解をさらに進めていきました。
今では質問を「はい、いいえ」で答えられるシンプルな形式にし、障害のある方の気持ちを引き出すことで、徐々にコミュニケーションがとりやすくなっています。
他にも、その日の役割分担を一覧にまとめ、ポイントを視覚的に確認できるようにした
業務指示書を配布することで、担当業務を分かりやすく伝える工夫をしています。
このように
障害にあわせた一人ひとりへの個別対応が、働きやすい環境をつくりだしています。少人数だからこそできる取組みの一例かもしれませんね。
参照::公益財団法人 東京しごと財団 職場内障害者サポーター事業好事例集