自閉症のある方は、特性により仕事で悩むこともあるでしょう。
例えば、
「人間関係の複雑な職場で本当にやっていけるだろうか?」
「仕事を続けることができるだろうか」
「ミスをして怒られるのではないか」
といった悩みはありませんか?
このような悩みから、復職や転職活動への一歩を踏み出せずにいる方は、同じ境遇の方の体験談を参考にしてみましょう。
自閉症のある方による口コミには、いきいきと仕事をしている方の声がたくさん届いています。
このコラムでは、向いている仕事の探し方や、ミスを減らすための工夫、人間関係に悩まないコツなどを紹介していきます。
発達障害の専門家 松好伸一先生(石巻専修大学人間学部人間教育学科 特命教授)にもアドバイスをいただきました。
復職や転職活動の参考にご覧ください。
※注:「自閉症」「アスペルガー症候群」は、現在「自閉症スペクトラム」いう診断名に統合されています。「自閉症」は実際の診断名としては用いられなくなりつつありますが、日常生活や行政の場などでは現在も広く使用されているため、この記事では「自閉症」という名称を用いています。
「思ったことがうまく周りの人に伝えられなくて、誤解されたり悲しい思いをしたり、嫌われているのではないかと悩むことが多い。」
「クレームがあった際に言葉でうまく伝えるのが苦手なため、上司に伝わらないことがありました。顧客からのクレーム以前に、うまく伝えられない私自身に上司のいらだちが募り、理詰めのような追加質問が繰り替えされ、顧客対応どころでなく個人攻撃のようになってしまいました。更に上の部署へ報告しても『お前が悪い』『甘えるな』と取り合ってもらえず、どんどん孤立していくばかり。誰にも相談できず、八方塞がりになって退職せざるを得なくなりました。」
「いわゆる『察する』ということができません。暗黙の了解、言葉にならない曖昧なルール、意図が汲み取れず、明確に言葉にされたこと以外への対応が難しいです。」
「言われたことをそのまま受け取ってしまい、指示を出した方の明確な意図を読むことができません。あとになって、指示と違うことをしたことを責められ、このような意図があったのにわからないのかと叱責を受けることが日常です。」
「人の表情や声のトーンから気持ちを読み取ることが困難で、自分では気づかない内に相手を怒らせてしまうことや、その場の空気が読めないことで集団から孤立してしまいます。」
「フリーズし、吃音、失声となり何もできなくなります。」
「一定の作業を一定時間内にひたすらこなしています。例えば盛り付けが綺麗にできない、スピードが追いつかずラインを止めてしまうと、後ろのベテラン層の方からの罵声が飛んできます。要領をつかまないとひたすら罵声の標的になります。」
自閉症のある方は、一つひとつの作業を正確に行うことが得意です。これは、こだわりが強いことでの現れでもありますが、周囲のペースを考えることなく、目の前の仕事に集中しこだわりを持って取り組んでしまうこともあり、独りよがりにみられてしまいます。
一方、複数の作業を同時に進めること(マルチタスク)は、苦手な人が多い傾向にあります。
また、自分のペースで進められれば簡単に成功することも、同僚や上司にせかされたり怒られたりすることで、失敗やミスを多発してしまうこともあります。その結果「仕事のできない人」と見られることがあります。
このように、自閉症のある方の多くが、自閉症の特性により職場の人間関係がうまくいかなかったり、辛い思いをしたりしています。
今、この記事を読んでいる方も、同じような経験をしたことありませんか?
しかし、自閉症を抱えながらも、復職や転職活動に成功している方はたくさんいます。自閉症の特性に向いている仕事を見つけ、サポートのある環境であれば、仕事を続けられるでしょう。
では、自閉症と付き合いながら復職や転職に成功した方の声をもとに、その秘訣をみていきましょう。
※他に自閉症のある方の仕事に関する体験談がたくさん届いています。
→自閉症のある方の体験談はこちらへ
「うつ病で休職したとき、復帰するタイミングを相談する相手がいなかった。休職していると金銭面で大きな不安があるが、その間有給休暇が使えるのかどうかも分からず、連絡も無いので不安な毎日を過ごした。」
福利厚生や制度が整っていることは重要です。特に、産業医やカウンセラーによる専門的なアドバイスやサポートは、自閉症のある方にとって大きな支えになります。
「時短勤務にしてくれたことは助かりましたが、『なぜお前は時短なんだ、事業所としての作業効率が上がらないから早く来い』『時短なんだから人より頑張って数字出さないと生き残れない、もっと頑張れ』と平気で言うような人が多く、非常に肩身の狭い思いをしました。」
「常に人員不足の現場では障害のことを配慮するどころか、打ち明けられる環境でもないため、何を言われても受け流すか耐えられる鈍感さが必要でした。店長や社員はフォローする余裕もないので、悩みを抱えがちになりました。」
「スキルアップが望めない。昇給ボーナスがない。ずっと新人のままになりそう。障害者がたった一人で疎外感を感じ、生意気だと思われないよう気を遣うので精一杯。完全アウェイ状態。安心して失敗して、スキルアップする機会がない。」
「勤務日の融通が利くので、連勤のような負荷がかかることがなく、自分のペースで働けます。」
「①自分ひとりで静かにこつこつできるもの、②文字や数字ばかりに偏らず図解やイラストのスキルが活かせるもの、③常に座ってできるものが向いている。」
「集団の中で一人ひとりの表情やその場の空気読みに失敗すると、どうしても孤立してしまい居づらくなることがあります。適応していければ問題ありませんが、もし難しい場合は思い切って少人数でまわす仕事を選ぶと良いです。自分の得手不得手を把握し、負担の少ない職場を選ぶことができれば、安定して勤務できスキルを身に付けることができます。」
「ハローワークの相談員さんの細かな援助を受けました。」
参考:厚生労働省職業安定局「ハローワークインターネットサービス」
「世田谷区の自立支援窓口『ぷらっとホーム』に世話になっている。そこの紹介で、昨年2月より就労移行支援施設『マナビト』を利用した。利用するきっかけになったのは、①集団プログラムに参加するか否かは個人の自由(←自分ひとりで何か学習したりしてOK)、②AdobeのイラストレーターやフォトショップのあるPCがあるの2点でした。」
「LITALICO(入所時はウイングル)とさら就労塾を利用しました。 LITALICO→障害がわかってから初めて利用した就労移行支援事業所。レクリエーションの他、ビジネスセミナー受講、応募書類添削、面接の練習や同行をしてもらいました。LITALICO独自の求人から書類選考と面接を受けて、総合病院への入職が決まりました。 」
「自分は何が得意か、今までどんなことに困ってきたのか、自分の障害はどのような特徴があるのか、自分をよく知ることがとても大切だと思います。
自分が障害者であることを認めたくない気持ちは、完全に拭い去るのは難しいかも知れません。でも、1日5秒だけでもいい、そんな自分を一旦受け止めることで、吹っ切れて楽になる瞬間も必ずあります。楽になる瞬間を増やしていくことで、企業で働くにせよ、自営業にせよ、何かあったときに状況を客観的に見る余裕が出てきます。それさえできれば、元々尖った能力を持っている自分の生かし方を模索する余裕も生まれます。」
「100%自分の希望に合った給与や条件を満たす企業にはなかなか出会えないのが普通。理想を高く持ちすぎず、無理なく働ける労働時間や仕事内容を探すのが最優先と感じる。また、自分の得手不得手、不得手に対しての自分なりの工夫や配慮事項をしっかり整理してから仕事に就くことをすすめます。」
「募集の多い接客業や現場の仕事を選んでしまいがちです。採用されやすい点はメリットですが、現場の仕事は基本的にマルチタスク且つストレスフル。継続できるかどうかを視野に入れて、慎重に職場を選択してもよいかも知れません。」
「障害、特に知的・精神障害のある方は、障害者枠の有無をきちんと調べるのは勿論のこと、どんな配慮がされているかを細かく尋ねたほうがよい。その時点で、①返事に具体性がない、②対応がおざなりになる等、ちょっとでもひっかかる点があったら、そこの企業は選ばないほうがよいと思う。また、自分は何が得意で、どんなスキルがあるか、それをどのように仕事に活かしたいかもきちんとアピールしたほうがよい。」
「障害者の雇用を積極的にしている企業を選ぶのが最良ですが、実際の仕事内容の詳細は働いてみないとわかりません。明らかにできないような仕事ならば断るべきですが、できそうであれば会社の担当者に自分の障害の特性を伝えておく必要があります。」
多くの方が、面接で自分の障害について伝えることをすすめています。「自閉症である」という事実だけではなく、できること・できないこと、得意なこと・不得意なこと、必要な配慮事項を採用担当者にはっきり伝えましょう。
自閉症の特性に向いていない仕事を割り振られると、ミスや失敗が多くなり、結果的に働きづらい状況に陥ることもあり得ます。
面接の段階で、自閉症の特性を正確に伝えることで、自分に合った仕事を割り振ってもらえる可能性が高まります。
しかし、面接では言わないほうがよいという意見も少数ながらありました。
「職場を探す前に、自分の病気の状態とどのような環境が自分に合った職場か(定期的なフルタイム、イレギュラーなフルタイム、在宅ワーク)をよく考える必要があると思います。また、面接時には最初から自分の病気のことは話さず、しばらく勤めてそれとなく仲の良くなった社員に打ち明ける方がよいと思います。」
自閉症のある方への偏見や差別の可能性や、なかなか就職が決まらないリスクなどを考慮すると、あえて最初から伝えないほうがよいのでは、という声もありました。
「人の表情や声のトーンから気持ちや意図を読み取ることができません。また言外のあいまいなことや、暗黙のルールが理解できないため、その場に不適切なことや、上司からの指示と違うことをしてしまい、叱責を受けることが多々あります。」
「興味あるものとそうでないものとの差が大きすぎる。そのため、自分の好きな(あるいは得意な)作業のときは時間が経つのを忘れてしまうほど没頭してしまう。が、自分の嫌いなもの・不得手な作業のときは作業そのものに手がつかず、結果的に周りにとても迷惑をかけてしまう。今まで経験した仕事でも、自分が好きなものあるいは『やりがいがある!』と感じた仕事に出会ったときは、面白いぐらいいくらでも続くのに、そうでない仕事に出会ってしまったときは朝起きた時点で体調が悪くなってしまい、結果的に休みがちになって退職してしまっていた。」
「複数の仕事を同時に依頼されての同時進行になるため、キャパオーバーになると何もできなくなり、客からのクレームや怒りをダイレクトに受けることで、さらに精神面でダメージを負います。」
「業務内容や報連相(報告・連絡・相談)の内容を整理するのに時間がかかるため、まとめる時間をいただいている。一つずつ具体的な指示をいただいている。」
「分からないことは近くにいる人に聞いて、仕事が終わったらきちんと報告することを忘れない。」
「具体的な言葉や文字、映像に直して手順をしっかり把握すればその通りにこなせるので、上司の機嫌を損ねる前に指示内容の詳細をできるだけ聞き出し、メモをして自分だけの手順書を作成しました。」
「周りをよく観察することと、メモを取ることを徹底しています。ずるいかも知れませんが、周りと違うことで目立って叱られるので、周りと同じことをすれば波風を立てず、心の平穏を保ちながら仕事ができます。」
「各業務内容の優先順位付けと、具体的に何をするかメモをしっかり残すことを徹底しています。」
「普段言われなければ気が付かないことや、空気の読めない点も多いので、もし自分が人に言われる前に気がついたら率先して動く。力仕事や、人の嫌がる仕事でも自分では苦にならないものもあるので、率先してやる。それをよく頼まれるようになって得意なことになれば、苦手やどうしても正確にできないことをやることも少なくなり、頼みやすくなる。」
自閉症のある方はとてもまじめな方が多いです。ただ、不器用に見えたり、要領が悪いように思われたりしてしまうだけなのです。保育士や幼稚園教諭、障害児支援に長年従事。またサービス管理責任者として障害者支援の経験を持つ。発達障害や保育に関する教科書など著書も多数で、2022年3月29日「幼児教育方法論」(共著・一藝社)を刊行。
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