【年間200件の視察あり】富士ソフト企画㈱、障がい者雇用の秘密とは

厚生労働省の障害者雇用職場改善好事例※にも取り上げられている、特例子会社の「富士ソフト企画」。障がい者雇用のノウハウを学びたい企業が年間200回も訪問し、国内外問わずその実績が注目されています。今回は、その秘密をお伺いしました。

※厚生労働省は、様々な工夫により障害者雇用を進めている事業主を、参考にしたい方向けに障害者雇用に関する事例を紹介しています。

目次

障がいのある方が”障がい者目線”で雇用管理をしている

”ありのままの自分”を受け入れてくれる環境

”貢献”がもたらす相乗効果

アイデアを考えるという自主性を大切にする

助けるのではなく”必要とする”姿勢が大切

”貢献”による正当な評価がモチベーションに繋がっている

一人で考えさせるのではなく一緒に考える

大切なのは「会社はあなたを必要としている」ことを伝えること

”人は自分の思い通りに動かない”ということを納得する

助けてもらうのではなく、共に助け合う

障がいのある方が”障がい者目線”で雇用管理をしている

まずはじめに、現在の雇用状況と業務内容についてお聞かせください。

遠田さん:現在働いている242名の社員のうち、236名が障害者手帳を持っています。身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者、発達障がいの方々が所属し、国内に4ヵ所ある勤務地で働いています。

業務内容としては、富士ソフトで派遣社員が担当していた業務を全て引き継いでいますが、大船にある事業所では主に外部からの仕事を受注しているので、HPの作成、名刺やパンフレットのデザインといった仕事を行なっています。仕事を行う上で必要なパソコンは、障がいの種類や重度に関係なく、一人一台使っています。

数々の賞を受賞されていますが、特に注目されている点はどこだと感じますか?

遠田さん:障がい者の目線で障がい者雇用管理をしているところが受賞のポイントだったのかもしれません。健常者目線で雇用管理するよりも、当事者の目線が加わった方が組織としてうまく回っていくということを、今までの経験で学んできました。

働いている方の障がい特性や個人の性格などは、どのように理解を深められているのですか?

遠田さん:ほとんどは仕事を通じてだと思っています。仕事がきちんとできる方は、障がいの状態も落ち着いていますし私生活も落ち着いていくんですよ。ただその逆もあって、私生活や体調が悪いと仕事にも影響が出るので、両方がうまくいくように努力することが障がい者雇用のポイントだと思います。

”ありのままの自分”を受け入れてくれる環境

具体的にどのような方が働いているのですか?

遠田さん:社員のほとんどの方が、障がい者手帳の1級~2級を保有していて、その大半は入院を経験されています。弊社は特に精神障がいの方の割合が多く、障がいのある社員の約半数を占めています。

1級や2級の方ですと企業から敬遠されるイメージが強いのですが、なぜ重度の方の雇用が多いのでしょうか。

遠田さん:我々は、むしろ重度の障がいがある方の方が一緒に働きやすいと感じています。また、定着率を見ても明らかに軽度の方よりも定着率が高いという結果が出ています。その理由は、入院した経験がある方は入院中に自身を深く見つめる時間が必然的に生まれることが関係しているのではないかと思っています。
入院経験があることは全くマイナスではないのです。ただ、「なぜ入院をして、どうして退院をできたのか、そして今どうありたいのか」をきちんとお話しできる方を採用しています。

当事者の方から「面接では障がいのことをどこまで隠したらいいのか」と聞かれることがあるのですが、隠すのではなくて、しっかりと事実を伝えることが大切ということですね。

遠田さん:そうですね。障がいのことを伝えてくれれば信頼関係にも繋がります。そして、入院経験があっても活躍されている方は大勢いるので、気負いせずに素直にお話ししていただきたいと思っています。

”貢献”がもたらす相乗効果

貢献がもたらす相乗効果


職場環境の特徴を教えてください。

遠田さん:業務体制は細かくセクションが分かれていて、全てのセクションに4障がいの方を必ず入れるようにしています。そうすることで、お互いに助け合いながら仕事をすることができ、良い相乗効果も生まれています。
例えば、知的障がいの方は他の方をサポートすることでIQが上がった、身体障がいの方は運動機能が向上した、精神障がいの方は気持ちが安定して薬が減った、などという効果が出ています。

それは”貢献感”というか、人の役に立っているという気持ちが結果的に良い方向へ作用しているということでしょうか?

遠田さん:そうですね、あと自己肯定感が高まっていくからだと思います。サポートされるだけじゃなくて、自分がサポートする側になると症状が良くなっていることが目に見えて分かるんです。

求められて自己肯定感が上がるというのは人間の根源ですね。

遠田さん:そうですね。そして、貢献しているということを目に見える形にしてあげられるのは企業の強みかなと思います。目に見える形というのは、役職だったり給料やボーナスだったりするので、今後様々な企業でも取り組んでいってもらいたいと思っています。

アイデアを考えるという自主性を大切にする

”貢献”というキーワードが出てきましたが、会社として何か周りに「貢献」していることはありますか?

遠田さん:6年前から『リワーク』という新しい仕事を始めたのですが、サービス内容の提案は障がいのある社員が行いました。

『リワーク』とはどのようなサービスでしょうか?

遠田さん:『リワーク』とは、親会社の富士ソフトの社員が1年間の休職期間から復帰する時期に、2週間だけ弊社で働いてもらうサービスです。 当時、親会社の富士ソフトではうつ病と診断された方が常時100名いるような状況でした。そこで、人事部の方から相談を受けこの状況をなんとかするためにスタートしたのが『リワーク』です。

うつ病と診断されると、産業医から休職命令が出され1年間休職をすることになります。 そして休職後、職場復帰前にリワークを利用します。利用期間中は自分の持つスキルを弊社の社員に提供します。例えば、営業職の方であれば営業のやり方を、開発職の方であれば開発についてなど所属部署や行なっていた業務について様々なことを教え、弊社の社員はそれらについて学ぶ事が出来るのです。

それは面白いサービスですね。リワーク利用者にもメリットはあるのですか。

遠田さん:リワーク利用者は自分の仕事を思い出す時間になります。1年間のブランクからいきなり職場復帰するのは怖いという方も多いので、ここでリズムを取り戻して欲しいと思っています。弊社の社員にとっては親会社のスキルを学ぶ絶好のチャンスになるのでお互いwinwinの関係になるわけです。

また、ご自分の人生についてパワーポイントにまとめてもらい発表してもらいます。そうすると、弊社の社員は真剣に話を聞いて、たくさん質問するんですよ。質問を受けながら自分のことを語ると脳が喜ぶ”カタルシス効果”も得られます。
このように、利用者には不安を取り除いた状態で復職してもらっています。

なるほど、素晴らしいですね。2週間のリワークを終えた方は、理性を取り戻した状態で復帰することができているということでしょうか。

遠田さん:そうですね。今まで86名利用されていて、そのうち71名が復職しているので、それなりに成果は出ているのかなと思います。当事者の方々が考えたからこそうまくいったんだと思います。

ーいろいろな方の生き方を知ることは、これからの生き方や自身の人生を見つめ直すきっかけにもなりますね。障がいがある方だけではなくて、みんなが自分にないものを補い合っているように感じました。

助けるのではなく”必要とする”姿勢が大切

大切にしている価値観や行動はありますか?

遠田さん:入社した当時は、障がい者の方に何かしてあげなくちゃと思っていたのですが、何かしてあげようと思うばかりではダメなんですよね。サポートするのではなくて、”サポートしてもらおう”と意識するようになってから、すごく楽になりました。

その意識の変化によって、信頼関係や自身に対する態度も変わりましたか?

遠田さん:そうですね。私も一生懸命彼らのために何かをしてあげないと、と肩に力が入っていたのですが、「黙って自分たちの仕事を見ていてほしい」とある社員に言われてそれがすごく響きました。彼らの自主性を生かすような仕事をお願いすると、とても活躍してくれるんですよ。だから、”自分で考えて自分で実行すること”ができる環境作りを大切にしています。

”貢献”による正当な評価がモチベーションに繋がっている

貢献による正当な評価がモチベーションに繋がっている


自主的にアイデアを考え、よいサービスを生み出すために、企業で取り組んでいる仕掛けや仕組みがあるのでしょうか?

遠田さん:特に何か仕掛けがあるわけではなく、今までお互いに助け合うという形で仕事を進めてきたことが深く関係しているとも思います。また、就労移行や委託訓練の運営を障がいのある社員が行なっているので、そういったところが土台としてあったのかもしれません。弊社の場合は、当事者の方が講師も行なっているのでその経験は大きいと思います。

今までは健常者の方が健常者のうつ病を治していたかもしれませんが、これからは障がい者の方が健常者の方のうつ病を治す時代だと思います。我々は障がい者の方々を天性のカウンセラーだと思っています。やはり、経験された方は強いなと思いますね。

日頃の取り組みが土台になっていると同時に、新しいことを考えるきっかけにもなっているのですね。モチベーションを維持させるために行なっていることはありますか。

遠田さん:一つは楽しく働いてもらうこと、もう一つはやりがいを持ってもらうことですね。定着率をよくするために楽しく働くことはとても大切だと思っています。業務中のコミュニケーションもそうですが、毎日1分間スピーチを行いプライベートでの出来事なども話しています。仕事面では、個人のビジネスレベルや障がい度合いによって業務内容を調整し、”自信とやりがい”が持てる状態にしています。

また、出世や昇進のチャンスも平等にあります。頑張ったことが評価され報われることで、モチベーションが高まります。

素晴らしいですね。管理職も障がいがある方が担当されているのでしょうか?

遠田さん:そうです。弊社は9割が障がい者の方なので、管理職も障がい者の方にお願いするのが鉄則となっています。客観的に見ますと、健常者の場合は障がい者の方のできないところを指摘する方が多い傾向にあります。しかし、障がい者の方が管理職になると、できるところを見つけてそれを引き出そうとする。そこが決定的な違いだと思います。また、健常者の指示でしか動けない状況は好ましくないので、”勇気を持って権限を与える”ことも大切だと思っています。

当事者の立場で障がい特性を理解できるからこそ、雇用管理がうまくいっているのかもしれませんね。

遠田さん:そうだと思います。また、お互いにストレスを感じるポイントや薬の副作用も経験者ではないと理解できないところも多いので、非常に助かっています。

管理職になるには、どのようなステップを踏まれるのでしょうか?

遠田さん:管理職になるのに勤務継続年数は関係ありません。明確な人事評価制度が整っているので、評価基準に則り評価をしています。大切なのは障がい別に差がないことなので、どんな障がいがある方にも平等にチャンスがあるように徹底しています。

素晴らしい。なかなか簡単にできることではないですよね。
実際に障がいをお持ちの方と働いていく中で、働いている皆さんの意識や行動が変わったなと感じたことはありますか?


遠田さん:今でもよく覚えているのは、発達障がいのあるマネージャーに聴覚障がいの方を3名配属したことがあったんです。最初は全くコミュニケーションが取れないチームでした。ある時、オフィスで電話が鳴った際に、電話を取れるのは自分しかいなく、自分が電話を取らないと他の3名は仕事ができないということに気が付いたんです。それからは、電話はマネージャーである自分が取り、チャットで3名に業務指示を送るようにしたらうまくいくようになったんです。なので、どこかのタイミングで気付くことが必要なんですよ。

”自分で気付く”ということが大切なんですね。

遠田さん:そうなんです。指示されてやれることには限界があるので、自分で気付くことがとても大切だと思っています。

一人で考えさせるのではなく一緒に考える

日頃のコミュニケーションで気を付けていることや心がけていることはありますか。

遠田さん:そうですね、企業によってはビジネスとプライベートの時間を明確に切り分けていて、仕事以外の時間は自己責任という認識を持たせるところもありますが、うちはうるさいくらいに日常の時間の使い方に口を突っ込んでいます。なぜなら、日常の時間に体調や心が乱れることがあれば、それは必ず仕事に支障をきたしてしまうからです。だから、趣味を持つとか体を鍛えることを積極的に推奨しています。

「プライベートでの不調は自己解決しよう」と書いている本も多いですが、逆の考え方なんですね。

遠田さん:私たちは一緒に考えたいと思っています。一人の時間をちゃんと過ごせないと、色々なことが乱れていきます。趣味がない方だと、お酒を飲みすぎてアルコール中毒になってしまうことや、過食行為に走ってしまうこともあります。そうならないためにも日常の時間を自分でコントロールできるようになることは本当に大切なことです。

それは管理職の方からアドバイスをしているのですか。

遠田さん:毎朝の1分間スピーチで、今日の自身の体調や体調をコントロールするために役立つ情報の共有などをしています。

大切なのは「会社はあなたを必要としている」ことを伝えること

リズムを作るのに役立っているユニークな取り組みや制度などはありますか。

遠田さん:そうですね、日報はみなさん書いていますね。花火大会に行った写真やご家族との写真などを載せてくれる方もいます。

あと、生き物を可愛がることも推奨しています。植物などでもいいのですが、命を大切にすることをしているとご自身の命も大切にすることができて自殺の予防にもなるんです。 一人でも多く働く喜びを取り戻してほしいと思っているので、心の状態を安定させるために出来ることを常日頃から強く伝えています。

また、障がい者雇用を行う上で、『体調がすぐれない時は積極的にフレックスを利用する』と定めています。体調が悪くて出社できない時に、最初から休むことを許可してしまうと自分は必要とされていないんじゃないかと感じてしまう方もいます。「昼からでもいいから来ませんか?」と一言声をかけることで、ゆっくりと出勤をして結果的に体調が改善した方もいらっしゃいます。

無責任に「休んだらどうですか」とか、「病院に行ったらどうですか」という言葉は突き放されていると感じさせてしまうので気を付けなくてはいけません。一歩踏み込んで”本当の支援とは何か”を考えた場合、相手にとってきついことを言わないといけないこともあります。

あなたを必要としているということを伝えることは大切なのですね。ただ、休ませてあげることが優しさだと思ってしまう方もいるかもしれませんね。

遠田さん:そうそう、そうなんです。なので、体調についてのアドバイスや気遣いはしつつも、必要としていることをきちんと伝えることが大切だと思います。
”会社はあなたを必要としている”ということをプレッシャーを与えずに理解していただくことは必要ですね。そのためにも仕事を切り出すべきだと思っています。居ても居なくても良い状況を作らないようにしています。

”人は自分の思い通りに動かない”ということを納得する

遠田さん:精神障がいの方は、優秀な方がとても多いです。優秀だからこそ目標値が高く、達成できなかった時のギャップにもがき苦しんでいることが多い。そういう方が、自身が活躍できる環境を見つければすごくよい仕事ができると思っています。

もともとの目標値が高い方が心を病んでしまった時に克服する方法はありますか。

遠田さん:そうですね。一番は現実を受け入れるということですかね。あとは、他人をコントロールしないことです。障がいの度合いが強い方ほど、他人をコントロールしようとする傾向があり、自分の力ではどうしようもないことに腹を立てているんですよね。だから、そこをちゃんと自覚できるようになれば、楽になるとは思います。

障がいのある方は、自己理解が簡単にできないことが、就職を難しくしているのではないか と感じるのですが、自己理解を促すためのポイントなどはありますか?

遠田さん:伝えたいことは、アルバイトでもいいから社会参画をしてみるということですね。 訓練だけを10年以上続けていても先には進まないので、働いてお金を得るという感触を掴んでみることが大切かなと思います。また、子どもが生まれ自分の予測を超えた行動をされると、そこで鍛えられて会社でも働きやすくなるという方もいらっしゃいます。人は自分の思い通りに動かないということを納得すると、社会に出やすくなりますし働きやすくなると思います。

社会の人と同様に、自分も思い通りに動かないということを感じることが自己理解に繋がり、目標値の調整ができるようになるのかもしれませんね。

遠田さん:そうですね。だから自分にも優しくなれる可能性もありますよね。

助けてもらうのではなく、共に助け合う

助けてもらうのではなく、共に助け合う


最後に、これから組織で働くことを考えている方や今の場所で悩んでいる方へメッセージをお願いします。

遠田さん:家にこもって障がいを嘆いているよりも、勇気を出して世の中に何らかの形で出て行って、他の方をサポートする立場を経験してみてほしいです。そして、ご自身の障がいを軽減していくことに取り組んで欲しいと思います。
また、サポートされるのではなくサポートする姿勢で物事を捉えることができれば、必然的に相手も自分を必要としてくれるはずです。恐れずに、まずは一歩踏み出して欲しいと思います。

※取材にご協力くださった「富士ソフト企画株式会社」の詳しい情報はホームページをご覧ください。
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著者

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