働き甲斐のある障がい者雇用で3年定着率84.6%湘南ゼミナールオーシャン

全国250校舎の学習塾を運営する湘南ゼミナールの特例子会社「湘南ゼミナールオーシャン」。神奈川県内、初となる学習塾の特例子会社として設立し、平成27年度の厚生労働省の障害者雇用職場改善好事例集に掲載、各地で講演を開くなど、特例子会社として大きな注目を集めています。注目される一つの要因が『高い定着率』。今回は、その秘密を伺いました。

働き甲斐のある障がい者雇用で3年定着率84.6%湘南ゼミナールオーシャン

目次

完璧な人はいらない、補い合ってチームになる

ーまず、精神障がい者雇用に特化している理由についてお聞かせください。

前山さん:全ての障がい種別の方を受け入れるべきだと思ったのですが、障がい者雇用のノウハウがなかったため、採用対象者を精神障がい者の方に絞り、雇用をスタートしました。

当時は、知的障がい者と身体障がい者の優秀な方ほど大手企業に就職してしまい、採用することが難しい現状でした。

その一方で、精神障がい者の方の雇用はなかなか進まず、就職に困っている方が大勢いました。それならば、一番遅れている精神障がい者雇用から始めたいと思いました。

ー精神障がいのある方を採用してみて感じたことはありますか?

前山さん:設立当初は、6名の精神障がい者の方を採用しましたが、当時は全く仕事がなく、グループワークばかりしていました。

一緒に働く中で分かった彼らの特徴は、緊張や不安が高くて疲れやすいことでした。そして、ものすごく丁寧で”ホスピタリティ”と”正確性”に長けているということでした。また、能力面は個人差があり、それは個性でもあることに気付きました。

そこで、彼らの得意なところを活かしてもらえばよいのではないかと思い、徹底的に強みを活かす仕組みにしました。本人が自覚している限り、課題は特に取り上げません。

ー強みを活かす仕組みとは、どのような取り組みでしょうか?

前山さん:強みや弱みというのは、今まで同じ時間や労力をかけてできているわけですよね。

でも、弱みはある一定のラインを迎えるとそれ以上にはならず、反対に、強みはもっともっと伸びると考えました。

能力のレーダーチャートに例えると、全ての項目を満たす必要はなく、得意不得意がある人でチームとしてすべての項目を満たせば良いという発想をしました。

強みを知り、強みを活かせる仕事をする

ー具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか?

前山さん:親会社の事務や軽作業の補助をしています。具体的には、個人情報の処理、封入封緘、名刺の作成と印刷、文書の電子化、データ入力などを行なっています。

設立当初は、全く仕事がもらえなかったとお話しましたが、その時の本社への依頼の仕方は「締め切りがゆったりめで、判断基準が明瞭な仕事」でした。でも、それでは仕事がもらえないことに気付き、”ホスピタリティ”と”正確性”という強みを活かせる仕事を探し、現在に至ります。

ー業務の中で、”ホスピタリティ”と”正確性”が活かされている事例があれば教えてください。

前山さん:名刺作成を事例として挙げると、本社の全社員の名刺を作成し、梱包する際に『39(ありがとう)カード』というものを必ず付けています。
そうやって、定期的に全社員へ向けてメッセージを届け、感謝を伝えています。
その積み重ねによって弊社を応援してくれる社員も増え、今では、社内の困り事や仕事をまとめて届けてくれる本社社員もいます。

ーそれは素晴らしいですね。”ホスピタリティ”と”正確性”が強みであると明言してから『39(ありがとう)カード』を始めたということですね。

前山さん:そうです。ただ、社員に”ホスピタリティ”や”正確性”を大切にしようと伝えると、障がいのある方は不安になってしまうと考え、不安や負担感を下げる工夫をしています。

弊社は、ペアで仕事をすることがとても多いのですが、二人で同じものを確認する『デュアルチェック』という形式をとっています。

ダブルチェックとの違いは、一方がもう一方のチェックをするのではなく、”共に確認をする”という点です。二人で一緒に確認することで、安心感が生まれ、生産性も高まったと感じます。

段階的に目標を変えていったから成功した

前山さん:徐々に仕事が増えてきた2015年から、業務のスピードを上げる方針に移りました。
一人一人タイマーを持ち、1時間でどのくらいの業務を処理できたか記録を取るようにしました。
すると、時間を意識して仕事するようになり、平均スピードが倍になりました。それによる体調への影響はなかったですね。

ー業務の習熟度が高まってから、目標が次の段階に移ったことがよかったのかもしれませんね。

前山さん:そうだと思います。

『育つ環境』を整えることを大切にする

『育つ環境』を整えることを大切にする


前山さん:特例子会社は、親会社から切り離されているのでダイバーシティではないとよく言われますが、弊社では障がいのある社員だけで親会社へ出張に行きます。

ーむしろ、特例子会社は本社と切り離すために作るという側面もありますよね。それはすごいことですね。

前山さん:そうですね。確実に社員たちが成長しているのだなと感じます。弊社では社内のマニュアルを自分たちで作成しているのですが、その仕事が評価されて、親会社の事務員向けマニュアル作成というプロジェクトを請負うことができました。まだ契約前ですが、グループ会社以外からも動画マニュアルなどで声をかけてもらえるようになってきました。そこまで業務の範囲が広がってきているのだと実感しています。

ーマニュアルのクオリティーの高さが評価され、地続きに仕事の幅が広がっているのはとても素晴らしいです。

前山さん:”働きやすさ”と”働きがい”という考えがありますが、弊社は小さな企業なので、オフィス環境を整えたり、休憩スペースを充実させるといった施設面での働きやすさを提供することはなかなか難しいです。なので、せめて”働きがい”は提供したいと強く思い、どうすべきか徹底的に考えてきました。

ー”働きがい”はどのような形で提供しているのですか?

前山さん:障がいのある方は成長する力は元々持っているので、『育つ環境』を整えることを大切にしました。

まず初めに取り組んだのは、畑を耕すところです。そして、社員の芽が出たら水や日の光を与えます。それが会社の理念や文化であり、そのためにもしっかりと社員へ教育していくことが必要だと思いました。

ー成長するための土壌だけ整え、あとは見守り、必要な時に手を差し伸べるということですね。それによって、信頼関係も強くなっているのでしょうか。

前山さん:そうだと思っています。実は、弊社の定着率はとても高いんです。古い資料になりますが、就労移行支援に通っていた方のデータと弊社の定着率のデータを比べると、一目で定着率の高さが分かると思います。

就労移行支援に通われていた方の離職理由は様々だと思いますが、弊社は1年未満の離職者はいません。入社から3年目までの定着率は84.6%で、3年以上勤続している社員もとても多いです。

ー定着率の高さが良く分かりました。古い資料とおっしゃったのは、比較データがないからということでしょうか?

前山さん:そうなんです。ただ、弊社の定着率は現在もほとんど変わらず高い結果を出しています。

”場”を好きになってもらうことから始めた

ーなぜ、高い定着率を保てているのでしょうか?

前山さん:セルフケアに力を入れている点が主な理由だとは思いますが、まず最初に取り組んでいるのは、”この場”を好きになってもらうことです。

会社を好きになるかどうかは正直分かりませんので、”場”を好きになってもらうことが重要だと思っています。次に、自分で選択するという主体性を持たせるため、意思決定者の決定に影響を与えるくらい自分の意思を強く持ち、それを伝えることが何よりも大切だと伝えています。

その他にも、ミスや失敗を経験と捉えて、全社員でどのように改善していくか話合うこともたくさん行なってきました。ミスは悪いことではなく、むしろ仕組みを見直すきっかけになり、成長するチャンスになるので、弊社ではミスをした社員に対して「気付きをありがとう」と伝えています。

ーそれは素晴らしい取り組みですね。ミスしたことをポジティブな事象と捉え、成長に繋げているということですね。

前山さん:設立1年目の時は、どこまで踏み込んでいいかが分からず、新しい制度を作ることに抵抗があったのですが、社員に「とりあえずやってみればいい」と言われ、今では良いと思ったことはまずやってみて、メリットがなければすぐにやめるという姿勢で行っています。

この試行錯誤のスピードをいかに早くするかが大切で、間違えれば間違えるほど成功するということも学びました。

また、今まではどこか”障がいのある方”という目線で見ていたのかもしれないと気付き、”一緒に働く仲間”に対する配慮として何をすべきかというフラットな目線も持てるようになりました。

ー絶妙ですよね。タイマーの話がありましたが、もし他人の数字が見えてしまったら、もしかしたら結果は変わっていたかもしれません。なんでも挑戦する大胆さも持ちつつ、細かい工夫や配慮を行っていることが、成功に繋がっているのではないかと感じました。

前山さん:そうかもしれません。効率ばかり追ってしまい、効果が伴わないことはやっても無駄だと思っているので、より効果が出るものは時間がかかっても行います。なので、試行錯誤はとても大切だと思っています。

勤怠を安定させて自信を持ってもらうためにも『セルフケア』は大切

勤怠を安定させて自信を持ってもらうためにも『セルフケア』は大切


ー障がい者雇用だと人事制度を大切に考える企業が多いですが、それはケースバイケースということでしょうか?

前山さん:おっしゃる通りだと思います。障がいのある方の生産性をあげる一番の方法は、勤怠が安定させることなんです。

多くの企業が、精神障がい者雇用に後ろ向きなのは、勤怠が安定しないことと配慮が難しいからと言われています。

弊社では、勤怠を安定させるために『セルフケア』を大切にしています。これは、障がいの有る無しに関係なく、働く者としての務めだと伝えています。我々は、セルフケアをサポートするために「道具箱」というシートを活用しています。

我々がセルフケアで行っているのは、以下の4サイクルです。

①状態把握→②回復行動→③自己開示、配慮要求→④オフタイムマネジメント(退社後に体調を整える行動を実施し、管理すること)

一日の流れ

一日の流れ


具体的に一日の流れに沿って、セルフケアの内容をご紹介したいと思います。

■9時45分:出社/状態把握
出社してから始業までは、飲み物を飲んだり、前日の日報を読み直したり、雑談をしたりと様々な過ごし方をしています。
セルフケアシートに当日の体調や心の状態を記録し、自身の状態を把握します。

■10時00分:朝礼
朝礼時には主に下記のことを行います。
・それぞれの業務担当クルーが進捗の状況と週の予定や変更点を連絡する
・1日の時間ごとのスケジュールが発表される
・前日の業務で気付いた問題点や変更点などがあれば連絡共有事項としてクルーが発表する
・改善提案やヒヤリハットがある方は他のクルーに意見をヒヤリングし決定する
(※社員は、同じ船に乗る仲間と捉え「クルー」と呼んでいます。)

■10時20分:午前中の業務開始/自己開示、配慮要求/回復行動
お仕事の開始時に、クルーが自身の体調や精神状態の共有と、業務を進める上で、周囲へ配慮を要求したいことを伝えます。これにより、お互いに思いやりを持って業務に取り組む事ができます。
回復行動とは、その日の自身の状態に合わせ、体調を整えるために効果のある行動を1時間に10分間実践することで、業務中に取り入れています。

■12時00分:お昼休み
クルーの多くは近くのスーパーやお弁当屋でお弁当を買ってきます。 この時間を利用して、体調をコントロールするため散歩などをするクルーもいます。

■13時00分:午後の業務開始/回復行動

■16時40分:終業の準備
担当している業務を終了して報告書を作成します。オフィス内の清掃当番の方は10分程度前倒しで報告書記入を開始してこの時間は清掃を行います。

■16時50分:終礼
その日に全体で達成した業務を振り返り、その後に、一人ずつクルーが自分の振り返りを発表します。

■17時00分:帰宅/オフタイムマネジメント

前山さん:セルフケアで心や体調を整える土壌さえつくっておけば、ワークスキルとコミュニケーションは自然と高まっていきます。
この4つのサイクルを実践したことで、勤怠が安定し、やがて自信へとつながり、体調がより良い方向へ向いていきます。

ー非常に素晴らしい取り組みだと思いました。障がいのある方に限らず、全ての企業で取り組むべき内容だとも思います。

幸福度を上げれば生産性は高まる

幸福度を上げれば生産性は高まる


ー最後に、障がい者雇用で悩まれている企業やこれから障がい者雇用で働くことを考えている方へ、メッセージをお願いします。

前山さん:企業は、障がい者雇用に限らず、働き方改革で時短を促すのではなくて、幸福度を上げて生産性を高めることから始めるべきだと思います。

弊社では、毎日良かったことを3つ書き出すことで、脳をポジティブな状態にしています。主観的な幸福度が上がると生産性が31%高まるという研究結果も出ています。

また、これからの時代、精神障がい者の方も必ず社会で活躍されると思っています。

まずは自分を知ることから始め、セルフケアを大切にし、自信を持って一歩踏み出していただきたいと思います。

※今回お話をうかがった「湘南ゼミナールオーシャン」の企業情報はこちらからご覧ください。
株式会社湘南ゼミナールオーシャン


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